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No,56  


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冬薔薇の花弁よりも尚儚い白
 
嵐簾太郎
2013/07/07 (Sun)


▲ 

No,55  


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「はははっ
お前たいして変わんねーなぁ」
「……お前アレはどうした?」
「あん?」
「何時も腹にしてる……」
「あぁ腹巻きは此の下だ」
「……そうか……(やはりしてるのか……)」
 
嵐簾太郎
2013/07/04 (Thu)


こすぷれ
 
何の?と気付いた貴方はれんちくんとお友達になれるかもしれませぬなぁ
(いやわかられても困るが)
 
その差約五年のれんちくんだけが得するこらぼ
 
ってかこんな阿呆なことやってたせいで時間がっ
あわわ
いそげいそげっ
嵐簾太郎
2013/07/04 (Thu)


▲ 

No,54  


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「…………………テメーら……
頼むからアタシの居ない所でいちゃいちゃしてくれ……」
「あぁ?何だお前焼きもちか?」
「んなっ」
「………そうか……交ぜて欲しい訳だな」
「何故そうなったっっ」
「しゃーねぇなぁーったく
ほら此方来い」
「だからちげーだろっってか離せぼけぇっ」
「ふむ……それでは物足りないか……?……なら」
「だぁっ近い近いちかいーーーーっっ!!!!!!!!
貌近づけるな変態共ーーーっっっ
っつか髭がちくちくしてぞわぞわするあぁああぁああっっ」
「あっはっはっはっお前本当おもしれぇなぁ」
「騒がしい娘だ」
 
 
「…………………………………(もう厭だ………お家帰りたい…………)」
  
 
苦労が絶えない幽霊姫なのであった
 
 
嵐簾太郎
2013/07/04 (Thu)


大変
 
そうだな幽霊姫(笑)
毎回男二人が不毛にいちゃいちゃしてんのの横に居て
(いや本人達はそんなつもりないんやろうけど)
居場所が無いっていうかそわそわしちゃってか
 
島に三人しかいないんやから
そんないぢわるしないで姫も交ぜてやってくれよ頼むから
嵐簾太郎
2013/07/04 (Thu)


暫く
 
居なくってすんませんね
いやまぁでも
此処そんなに覗いてはる方少ないやろうしね
きっと良いでしょう
 
拍手ありがとうございますっ
ありがたーい
嵐簾太郎
2013/07/04 (Thu)


▲ 

No,53  

それはある日の事だった


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「おいソレもういい加減にしろよ」
「うむ」
「おいっ」
 
嵐簾太郎
2013/07/01 (Mon)


あふぁ
 
あぷるかも謂うてしなかったとかねぇごめんなさいな
そんなワケで無理矢理あぷ
もうこの小話と向き合ってるのが厭になったとか

 
*注意
 
相変わらず?のみほぞろぺろで現代?ぱられる
BL/NL要素が含まれるのでドチラかが駄目な方は読まない方向で
あと年齢設定が鬼だとか
なので若干男二人がアレでソレに見えるかもしれませんが気にしない
そして最終的にまりーもさんに苛っとさせられて終わるので
まりーもさんふぁんも見なかった事に
 
まぁそんな感じですよ
嵐簾太郎
2013/07/04 (Thu)


■ それはある日の事だった
 
 
 
「おいソレもういい加減にしろよ」
「うむ」
「おいっ」
 
 
飯喰う時に新聞読むなと何度も謂うのに此の男は…
 
 
生返事で新聞にばかりご執心だ
 
ソレに少しむっとして唇を尖らせる
 
「おいっ折角作ったのに冷えちまうだろ」
「ああ…」
「ああ…じゃねーよっ」
 
男の口真似をしてみても嗤う訳でもなく
ただじいっと
狭い世界にぎゅうぎゅう詰めにされた文字ばかりを追っかけている
 
 
なんだもう
 
 
折角あのムカツクぐる眉から
クロックマダムとかってぇのの作り方
教わって作ってみたのに
 
あっついウチに喰わねぇと
とろとろチーズが台無しじゃねーか
 
「なぁ」
「わかったわかった」
「わかってねーだろ」
 
さっきっから口ばっかりだ
 
己は態とらしく溜め息を吐いて足下に視線を移した
 
其処では大きな黒いイキモノが
ご主人様よりも先に朝飯をがっついている
 
「なぁよ夜
お前のご主人様にも謂ってくれよ
朝飯喰えってさぁ」
「………」
 
呼びかけられたイキモノはぱっと貌を上げ
此方を金の眸でじぃっと見つめながら
口の周りに付いた肉屑を長い紅い舌でべろんっと舐めとって
 
『なんだ?』
 
と謂ってでもいるかのように首を傾げた
 
「いや……いいや」
 
飯の途中で呼んでわりぃ
と謝ると
己の言羽が通じてでもいるか
彼はまた己の飯に貌を突っ込んで食事を再開した
 
「……」
 
何時も思うのだけれど
このイキモノは一体なんだろうか…?
 
見た目は犬………のようでもあるけれど…
 
どっちかってぇと狼にも似てるような……はて
 
しかしこの国では…
と謂うか大体の国では狼は飼っちゃまずい…ような?
 
 
「……………」
 
 
だからきっとこれは犬に違いない
そうに決まっている
 
と己を納得させ
(と謂うか考えるのが面倒になって)
ふと違う事に気付いてもう一度夜に聲をかけた
 
「おい?秋水はどうした?」
「…」
 
夜は再び貌を上げると
鼻先で己の足下を指した
 
ん?
と真下を見ると
これまた真っ黒い小さなイキモノがちょこんっと座って
此方をじぃ………っと見上げているのに気付く
 
「お前いつの間に」
 
気配無かったぞと己が謂うと
彼は己を小馬鹿にしたような甘ったるい聲で
「なぁ」と鳴いた
 
 
秋水は己が前に住んでたマンションから連れて来た黒猫だ
 
元々野良だったのが
何故か己の部屋のベランダに居着いていて
(己の部屋の前には大きな櫻の木があって
その枝伝いに入り込んでたようだ)
 
此の家に引っ越す時も
勝手にくっついて来てしまったのだ
 
家主が飼っている夜にもいつの間にか懐いてしまったらしく
夜の方もまんざらでもない様子でその黒猫を構っていたので
「どうする?」と家主に伺いをたてたらば
「己は別に構わんが」と
案外すんなり了承を得てしまったので
仕方なくそのまま飼う事になってしまった……
と謂う訳だった
 
 
その黒猫の真ん丸にも近い紅い眸が

無心に主人(たぶん)である己を見つめている
 
「うっ」
 
その無言の訴えを言羽にするならば
 
『おい
お前の持ってるソレの方が美味そうだな
こんなカリカリの飯よりそっち寄越せよ
なぁ良いだろ
そっちくれよなぁ
なぁって』
 
と謂った所か
 
「…………………」
 
訴えかけて来る内容はアレだが
見た目がかわいらしいモノだから
ついその誘惑に負けそうになる
 
でも駄目だっ
と折れそうになる己の心を奮い立たせるようにして
ぷいっと視線を逸らした
(謂っとくが逃げたわけじゃないっ)
 
「こりゃぁ己の朝飯だっ
っつかお前喰えねぇだろ」
 
塩分に猫はたいて……いや違った
猫に塩分は大敵だ
 
こんなチーズやらベシャメルソースやらベーコンやらが乗ってるもの
やれる訳が無い
 
「だから駄目だ」
「………なー………ぅ……」
「駄目だ」
「ぅぁー……う…………」
「駄目だってんだろ」
「んぁあー……う…」
「だから」
 
「おい」
 
真向かいから渋い聲が聞こえて
はっとする
  
「何時迄やっとるんだ……」
 
苦咲と共にそう聞かれ
うくっと詰まって貌が熱くなった
 
「だってコイツが」
「…ふむ……秋水…与えられたモノにしておけ…」
「………ぅー…」
「あっこのやろうっ」
 
男のたった一言で素直に聞き分けた様子の黒猫に
むかっとしてしっぽを掴もうとしたが
寸での所でするりっと逃げられてしまった
 
「ったく……お前の謂う事は聞くんだよなぁ彼奴」
「そうでもないぞ」
「そうか?」
 
お前によく懐いていると謂われて首を傾げた
 
 
本当かよまったく
 
 
それにちゃぁあの態度だぞと
何だか腑に落ちない気分で己はふんっと鼻を鳴らした
 
男はいつの間にか読み終えていたらしい新聞を
几帳面さの滲む指先で丁寧に畳んでテーブルの端に置き
ソレを見て己も漸く椅子に座わる
 
「あーもう腹減った」
「悪かったな」
「まったくだ」
 
珈琲の良い香りに誘われて
お腹がきゅぅっと切なく痛んだ
 
今日の朝飯は不器用な己にしちゃぁ中々好い出来だと
見た目にも満足してにんまりとする

テーブルの下の夜は…もう半分くらいおわっちまってるけれど
秋水も己の飯の前にちょこっと丸まって
 
「そんじゃ」
「うむ」
 
両手を合わせて
 
 
いただきます
 
 
 
 
 
 
 
 
少し冷たくなってしまったけれど
初めて作ったクロックマダムはまぁまぁな味だった
 
「だから飯時に新聞読むの止めろってんだろ」
 
と思い出したように文句を謂うと
男はすまんなと大して悪怯れる様子も無く呟いた
 
「この時間読まねば中々タイミングが無くてな」
「だからってよ」
「気をつける」
「ったく」
 
己がまだむすくれてると男に
「お前はバラティエの息子のような事を謂う」と謂われ
「何で今彼奴の事が出てくんだよ」と睨んだ
 
 
バラティエと謂うのは
己の通っている大学の近くにあるレストランの名前だ
 
そこの家の息子が己と同じ歳で
ソイツとは互いに互いが気に入らない
まったくもって気が合わないと謂う最悪の間柄だと謂うのに
何故か小・中・高校と同じクラスだったと謂う…
 
謂ってしまえば幼なじみと謂う奴だった
 
流石に大学は違うものの
彼奴の通っている専門学校はウチの大学構内にある分校で
 
だから結局(非常に不本意ながらも)
未だに腐れ縁が続いているのだ
 
そしてそのレストランを仕事場に近いからと
男も良く利用していた
 
当然その息子とも知り合いで
己は正直それも気に入らないのだけれど
(そんな事を謂ったらまた餓鬼扱いされそうだから謂わないでおく)
 
 
「仕事をしながら食事をすると"飯に集中しろ"と怒られる」
「一緒にすんなっ」
 
にやけ面のぐる眉の貌を想い出し
腹が立ってぎゃんと吠えると男は頤に指を置き
ふむ…と思案貌で呟いた
 
「……お前はどうして彼にだけそれほど過剰反応するのか…」
「かっっっ?????してねーよっっ」
「そうか?」
 
些か妬けるがと咲う男に勘弁してくれと
ぴりつく気持ちと
もぞもぞっとする気持ちの両方を流し込むように珈琲を飲んだ
 
「お前そう謂うの本当止めろ」
「そう謂うのとは?」
 
闇色の眸が穏やかに此方を見つめている
 
「だから…………」
「ん?」
 
流し込んだばかりの気持ちがそろりとまた戻って来て
ぽはっと耳が熱くなった
 
「………だから………えーっと………………あー…………………もう良い」
「……そうか」
 
何と謂って良いのか分らなくなって
がしがしっと頭をかいた
 
 
本当勘弁してくれ
 
 
足下では夜と秋水が朝食を終えて毛繕いをしている
 
互いに真っ黒な為
秋水が夜にくるまると最早区別がつかない
 
「兎に角っ
飯の時に新聞読むのは禁止なっ
じゃねーともう飯作ってやんねぇからな」
「それは困るな」
 
男は小さく咲って一口珈琲を飲んだ
 
自分だって一人暮らしが長かったのだから
自炊だって出来るだろうに
己が越して来てからと謂うモノ
男は己の作ったモノしかあまり口にしなくなってしまった
 
元々小食だったせいで
放っておくと一日何も食べないなんて事もざらだと謂っていた
 
 
それであの殻ダを維持出来てるってんだから不思議だよだ
 
 
と男の広い肩を見つめ
次いでその素膚の熱さを想い出して
阿呆みたいに独り紅くなった
 
 
何を想い出してんだか
 
 
情けないと思いつつ
もやもやした感情を頭から追い出す為に
がぶりとレタスに噛み付く
 
 
やっぱり生野菜にはマヨより塩だよなぁ 
 
 
そんな事を思ってると
ケツぽけっとに突っ込んだままになっていた携帯が震えた
 
誰だと画面を見れば
我が最愛(?)の女からのメールだった
 
素早く中身を確認して今度は男の方を向く
 
「彼奴午後来るってよ
何か欲しいもの無いかってさ」
「そうか………今の所何も無いが…」
 
あの仔が来るのならば車を出して何処かに出かけるか
と逆に聞かれ
「良いのかよ?」と問い直すのに男が頷いたので
思わず咲顔になってしまった
 
早速彼女にもその旨をメールすると
喜んでいる様子の返事が速攻で帰って来る
 
「これで彼奴今日一日は機嫌良いぞ」
「そうか…良かったな」
 
何が良かったのかは分らないが
彼女の機嫌が良いならそれに越した事は無い
 
 
たまには彼奴の悪罵を聞かずに済む日も悪くはねぇ
 
 

何時もぷりぷりと怒ってばかりいる少女の貌を想い出して
知らず口元を緩めていたらしく
男に「鼻の下が伸びてるぞ」と散々からかわれた
 
 
何だよお前だって
 
 
とむすくれると
「それはドチラに対しての焼きもちだ?」
と聞かれてあわあわと焦ってしまったのだった
 
 
 
 
 
 
 
 
己とこの親父は世間一般で謂う所の"恋人関係"と謂うヤツだ
 
 
 
両親を事故で無くした己が
母親の弟だと謂う剣道場を営む夫婦に引き取られたのは
丁度三歳の頃だった
 
まだ年端もいかない餓鬼に
お前の両親はもう居ないんだと謂われてもさっぱりだっただろうに
葬儀の時の己は哭きわめく事もなく
ただじっと二人の写真を見つめていたと後で聞いた
 
単に何も判ってなかっただけか
それとも当時の己には己なりの考えがあってそうしたのか
 
曖昧な記憶の波間に閉ざされたその真意について
最早今の己が知る事は出来ないのだけれど
 
まぁそんなものだから
幼かった己には本当の両親の想い出など殆ど無く
 
その代わりに己を育ててくれた養父母と
彼等の娘が己にとっては本当の家族だった
 
 
 
家には大きな剣道場があり
己も其処で養父に剣道と居合道を教わっていた
 
その道場で時折師匠の代わりとして生徒達を指導をしていたのが
今の己の恋人である彼なのだ
 
 
当時己はまだ四歳くらいで
彼はたしか二十五位だったと思う
 
正直今でも良くわからないのだけれど
あれはたぶん
一目惚れとか謂う奴だったんじゃなかろうか
 
 
彼が振るった刀から迸る
黄金色の焔影に惚れたのだ
 
 
四歳の頃の記憶なぞ
ちらりちらりとしか覚えていないのにも関わらず
あの時見た彼から立ち上る陽炎の揺らめきは
眸に焼き付いて未だに離れないでいる
 
まぁでも
所詮四歳の餓鬼に恋愛感情の有無を自覚出来る程の脳みそは無く
其の頃はただ
ぼんやりと憧れみたいな物を抱いていたに過ぎなかったんだと思う
 
無口な彼に手ほどきを受けながら
毎日稽古をつけて貰うのは嬉しかったし
純粋に強くもなりたかった
 
でもそんな彼は
一年もしない内に仕事の関係で英国へと旅立ってしまったのだ
 
彼はもう来ないと養父に告げられた時程ショックな事はなかった
 
同じ線上で考えるのはどうかとも思うけれど
たぶん両親が居なくなった時以来の衝撃で
 
己ではどうにも出来ない"大人の事情"と謂う訳のわからないモノに
幼いながらも理不尽さを覚えた物だ
 
そう謂う訳で
 
己の初恋とやらはあっさり其処で終わってしまう筈……
だったのだけれども
 
これがどう謂う訳かそうでもなかった
 
あれから十四年の歳月が過ぎ
己も十八になった頃
 
彼がまたも仕事でと
長らく住んでいた英国より戻って来たのだ
 
そんな事露程も知らなかった己は
高校より帰って来て養父に挨拶をと障子を開いた時
彼が養父の前に座って居るのを見て
それこそ心の臓が止まったんじゃなかろうかと疑う程に驚いた
 
養母は既に病で亡くなっていたが
養父に挨拶をと剣道場に彼がやって来たのだ
 
思わぬ再会に己も驚いたが彼もまた驚いていた
 
記憶の中の彼よりは確かに歳も相応に見えたが
でも彼は矢張り彼のままで
 
鋭く
闇のように深い色合いの眸は健在だった
 
其の頃既に養父の代わりにと
己が師範代として道場で稽古をつけていたのだが
己の腕前を見てやって欲しいと師匠の勧めによって
僅かな時間手合わせをした
 
幼かった頃には拙い己に刀の持ち方から教えた彼だが
実際に対峙してみるのは初めてだった
 
その場に立ってみて
初めて分る事もある
 
立ち上る黄金の揺らめきは燃えれば燃える程に紅く輝き
じりじりと己を皮膚を焦がした
 
真っ直ぐに貫いて来る眸は
普段見られるあの闇色ではなく
夜昊で煌煌と冷たく光る月のような白金色だ
 
向き合っただけでどっと冷や汗が吹き出す
 
勝てる気が全くしない
 
  
一歩でも踏み出せば斬られる
 
 
例えそれが竹刀であると己自身理解していたとしても
そう感じさせるには十分な鬼配だった
 
それでも男に臆したとは思われたくなく
息苦しさに喉を詰まらせながらも
逃げる事だけはしなかった
 
猛獣のような男に比べれば
己などは兎……いやそれは過大評価し過ぎだろう
たぶん鼠辺りが良いとこだろうが
 
 
でも鼠だとて鋭い牙があるのだ
 
 
ちったぁ男に何か遺せないかと
無謀だと判りつつも男に向かって
最初の一歩を踏み出したのだった
 
 
結局惨敗も良いとこだったのだけれども
 
 
余りにも一瞬で終わってしまった事を残念に想い
男を落胆させたのではと不安になって彼を見ると
 
男は先程の鬼配など微塵も感じさせない
柔らかな咲顔を持って
「強くなったな」と髪を撫でてくれたのだった
 
 
「…………っ」
 
 
今にして思うと
きっとアレがいけなかったのだ
 
幼き日に淡い情想を抱いた男に
あの頃よりも更に輝きを増した劫火に灼かれ
 
己の中で疾うに消え失せたと想っていた燻りが
死灰復燃ゆの如く再燃してしまったと謂う訳だ
  
我ながら何とも単純だと笑ってしまう
 
でもまぁ
そうなってしまったモノは仕方が無いと
諦めるよりほか無い
 
 
 
 
 
 
 
 
さて
始まりはそう謂うコトなのだが
この後にも紆余曲折あった上で何とか今に至る
 
何だか色々面倒な事もあったけれど
それも今では良い想い出………………………ではないが
 
 
まぁ
今は取りあえず此れで良いんじゃねーかなぁ
 
 
等と
食後の珈琲を二人で飲みながら
のんびりとそう想ったりもするのだった
 
 
 
 
 
 
 
 
朝食を終え
後片付けを男に任せて己は全自動でまわしていた洗濯でも干すかと
洗濯機より衣類を取り出した
 

 
「ん?」
 
其の中に珍しい色の布が紛れているのに気付いて
ソレをひょいっとつまみ上げる
 
男二人のむさ苦しい家には似つかわしくない
何とも愉快な色合いのソレは
桃色のハンカチだ
 
「…………」
 
その持ち主であろう少女を想い出して
綺麗に干しとかねぇと後でどやされるなと苦笑した
 
 
 
 
 
 
 
 
少しだけ彼女のハナシもしておこう
 
 
彼女と己が初めて逢ったのは
今から八年程前の事だ
 
家の剣道場には十二歳未満の生徒だけを集めた年少組があり
 
己はその中で最年長と謂う事もあって
姉と共に彼等の師匠代わりをしていた
 
 
 
ある日
 
己達が道場の裏にある寺の境内を借りて
素振りの練習をしていると
何処から来たのか小さな女の子が
独りぽつねんと寺の階段に座ってるのに気付いた
 
紅いワンピースに髪を両で結び
黒めがちの大きい眸が印象的な
人形のように綺麗な少女だった
 
「なぁ…あれ」
「うん」
 
己は姉の袖を引っ張って彼女に視線を向けると
矢張り姉も気付いていたのか心配そうに眉を寄せた
 
その姿はまだ幼く
か細い両腕には少しばかり大き過ぎるぬいぐるみを抱えて
何をするでもなく此方をじっと見ている様子だ
 
辺りを見渡してみても
少女の親と思われるヒトの姿は無く
不安になった姉がその少女に聲をかけると
彼女は何も答えずにふるふるっと首を振るばかりだった
  
困り果てた姉がどうしたモノかと己に視線を寄越したので
己も彼女に近づいて
 
「おいっお前どっから来たんだっ」
 

可成り乱暴な口調で聞いてみた
 
すると
 
 
「うっせーなばかっっ
こっちのおねぇさんはかわいいからゆるすけど
てめーはかわいくねーんだからアッチいけっぼけぇっっ」
 
 
  
「「………………………………っっっっっっっっ」」
 
 
 
紅く小さな唇から飛び出したその内容に思わず硬直し
 
その可憐な見た目とのあまりの差異に
己と姉は暫く固まって動けなかった
 
 
 
 
 
己達の彼女の第一印象は
この通りだった訳だけれど
 
女と謂うものは男の己には理解出来ないイキモノで
 
姉はどうやら可成りあの少女を気に入ったらしく
其の後も己に餓鬼共の稽古を押し付けて
彼女と色々とハナシをしていた
 
あんな可愛げのねぇクソ餓鬼の何処がそんなに良いのか
己にはさっぱり解らなかったが…
 
そうしてハナシている内に
どうやら彼女はこの近所の仔だと謂う事がわかった
 
それにしてはこんな目立つ孤供が居れば
己や姉だって知っていてもおかしくはないのに?
と疑問に思ってると
 
今居るのは祖父母の家で
仕事で忙しい父親が彼女を構ってやれない時だけ
そちらの家に預けられるのだそうだ
(母親は居ないと謂っていた
どう"居ない"のかは聞かなかった)
  
なるほど
 
ならその家は何処なのだと聞けば以外と近く
寺からなら本当に眼と鼻の先くらいの距離だった
 
それなら放っといても良いんじゃねぇか?と己が謂うと
「この莫迦垂れっっ」
と姉に本気の平手打ちをくらった
 
何故だ
 
「こんな幼気な仔を放っといて良いわけないでしょっ
どんなに家が近くったって途中には大通りや
暗い路だってあるのよっ
事故にあったり
誰かに攫われたりしたらどうすんのっっ」
 
姉に悪鬼の如く形相で掴み掛かられながらそう謂われてしまうと
己はもう何も謂えなくなってしまい
 
「えっ………や…………………」
 
と訳の分からない言羽を呟いたっきり
押し黙ってしまった
 
 
昔から彼女にはどうにも弱いのだ……
 
 
そんなワケで
「この仔は私が送って来るから」と勝手に決めてしまった姉に
好きにしろよと片手を振り
 
稽古が終わる頃にはすかっかり仲良くなってしまった二人を尻目に
己はため息を吐いて餓鬼共を道場へと連れ帰ったのだった
  
 
 
 
ソレ以来
何故かその少女も姉を気に入ったようで
己達が練習をしている寺の境内だけでなく
道場にも貌を出すようになった
 
己はと謂うと
貌を付き合わせば可愛げの微塵もない暴言を吐きまくる上に
何故か己にばかり突っかかって来るその少女に幾分苛ついていて
 
正直気に入らなかった
 
 
他の奴らには結構普通にしてんのによっ
 
 
その苛つきの原因が何なのかはわからなかったが
彼女が道場に貌を出す度に口喧嘩をして姉に怒られ
 
その度に己はぐちゃぐちゃとしたむかつきに腹を立てていた
 
 
 
それからまた暫く経ったある日の事だ
 
己が道場の脇で己の刀の手入れをしている時
彼女がひょこっと貌を出したのだ
 
その時道場の中には己の他に誰も居らず
彼女の貌を見た途端
面倒くせぇのが来たと眉を寄せたのだった
 
「なにやってんだオマエ」
「……るせぇな……危ねぇからあっち行ってろ」
「んだよっつまんねーやつっ」
「だとっ」
 
ちょこちょこっと近づいて来た彼女から
刀を遠ざけるようにして背を向ける
 
師匠から譲り受けた大切な刀を
無闇矢鱈に見せびらかすような真似はしたくなかった
 
でもそんな己の心情などおかまい無しの彼女は
己の背後から貌を覗かせて
「みせろみせろ」と腕を伸ばして来たのだ
 
本物の刀なぞ目にする事自体少ない上に
己の持っていた白銀は
道場に射し込む陽光を反射してきらきらと輝いて見え
それが彼女の興味を惹いたようだ
 
背後からにょきっと伸びて来た白い腕にぎょっとして
マヂで危ねぇからと彼女を押さえつけるように
腕を後ろに払った
 
それがいけなかったのか
背中でバランスを崩した彼女の殻ダが傾いで
あっと思った瞬間には
伸ばされていた彼女の真っ白い腕に
紅い線がぱっと浮かび上がった
 
「っ」
 
彼女の殻ダがびくっと一瞬震え
次にはその大きな眸がうるうると水気を帯びる
 
己は慌てて刀を仕舞うと
彼女の殻ダを抱き寄せてその腕を見た
 
真っ白い腕に引いた細く美しいラインから
紅い液体がつたりと音を立ててでもいるかのような様で
流れ堕ちている
 
己は咄嗟にその雫を舐めとって
紅い液体を吐き出す疵口も唇で覆った
 
 
消毒とか
止血とか
そう謂った意味合いでそうしたのではなく
 
ただ単に
このまま流れ落ちてしまうのは勿体ないと思ったからだった
 
 
そのまま暫くそうしていると
疵自体が浅かったのか直ぐに血は止まった
 
それにほっとして溜め息を吐くと
抱いた小さな肩がぷるぷると震えているのに気づき
はっとして貌を上げ彼女の貌を覗き込んだ
 
彼女は泪を眸一杯に留めてはいるものの
何時ものように泣きわめく事も無く
ただじっとその深黒で己を見つめていた
 
その丸い玉は窓から射し込む陽射しを受け
てらりと濡れて光っている
 
「……」
 
思わずその色に魅入ってしまうが
そんな事している場合ではないと
慌てて視線を彼女の腕へと戻した
 
其処で己は一番肝心な事を謂っていなかったと気づき
「大丈夫か」
と漸くその言羽を口にしたのだった
 
 
たぶん己もかなり動揺していたのだと思う
 
 
己の問いに彼女は無言でこくこくと頷き
「悪かった」と呟く己に尚も泣きそうな貌になって
 
「…ご……ごめ……な…さ…」
 
と消え入りそうな小さな聲で謝った
 
「何でお前が謝るんだ」
 
 
もっと注意すべきだったのは己の方なのに
 
 
それでも彼女は"ごめんなさい"と繰り返し
己の服を小さな手できゅうっと握りしめていた
 
「………」
 
その幼い姿に胸の辺りが締め付けられて苦しくなる
 
「…お前のせいじゃねぇって」
 
彼女を落ち着かせるように背中を撫で
頼りなくか弱い殻ダのラインに
 
 
ああコイツはこんなにもちっこかったのか
 
  
と改めて思い知らされ
 
此処で己は
初めて彼女が酷く大切なモノのように想えたのだった
 
 
 
 
 
一応血は止まってはいるようだったが
疵はまだ其処にあるので
己は彼女の軽い殻ダを抱え上げたまま母家へと行き
台所で晩飯の支度の手伝いをしていた姉に事情を話して
彼女の手当をしてもらった
 
(その時しこたまボコられたのは謂うまでもない…)
 
疵は本当に小さく
良く斬れる刃で切った為に痕には遺らないだろう謂われたが
でも怪我をさせてしまった己としてはソレで納得出来る訳もなく
 
彼女を育てている祖父母に
頭の一つでも下げねば気が済まないと想っていたが
 
彼女自身がソレを嫌がったので
己はぐちゃぐちゃとする気分で我慢するしかなかった
 
でも怪我をした理由くらいは説明せねばなるまいと
その日は師匠が彼女を送って行ったのだった
 
己は選りによって一番迷惑をかけてはいけないヒトに迷惑をかけてしまったと
その日の事を後で幾度も後悔する事となった
 
 
 
 
暫く間
彼女の左腕には白い包帯が巻かれていた
 
ソレを見る度に己の心は悔恨の念に苛まれたが
彼女は前よりも己に咲ってくれるようになったので
それがせめてもの救いのようにも想えた
 
 
 
 
それから数日後
道場へと貌を出した彼女が
とことこと近づいて来たので抱き上げて
「腕痛くねぇか」と聞いてみる
 
彼女は「もうぜんぜんだっつーのっばーかっ」と
相変わらずの口の悪さで咲っていた
 
「疵が遺らなきゃ良いな」
「のこってもベツにアタシはかまわねーけど」
「己が困んだよ」
「んでだよ」
 
だってそうだろ
 
 
嫁入り前の女の殻ダに疵付けたなんて親が泣くじゃねぇか
 
 
そう謂ってやると彼女は呆れて
「オマエやっぱバカなのかーっ」とけたけたと咲った
 
何でだよと口をへの字に歪めると
「アタシみたいのはダレもヨメになんてほしくねーよ」
と彼女が謂ったので再度「何でだよ」と聞いてみる
 
すると
  
「イロイロおとなのジジョーってのがあんだよ」
 

突然彼女が大人ぶった仕草で
ふぅっとため息を吐きながら肩を竦めて見せたので
 
「ふーん…?」
 

何だかわからんが
彼女がそう謂うのだかそうなのだろうなと思う事にした
 
其処で己はぱっと良い事を想い付いたのだ
 
「ならよ」
「あん?」
「誰にも貰い手がねぇんだったら己が貰ってやるよ」
「ばーかっナニいって………………………………………………へ?」
 
きょとーっん
と大きな眸を更に大きく見開いて
彼女が惚けたような貌をしたので
 
己は再度同じ事を繰り返し彼女に伝えた
 
 
「だから己の嫁になりゃ良いじゃねーか」
 
 
それで己のこのもやもやした後ろめたさも解消される

 
我ながら良い安だと頷いていると
彼女が突然
 
 
「あほかーーーーーーーーーっっっっっっっっっっっっっ」
 
 
と耳元で怒鳴ったので
己はくらっと一瞬意識が遠のきかけた
 
「……おま………こまく…やぶれ……っ」
「ばっばかっおまっっっっおまえっっなっなにっなにっなにをっっっっっっっ」
 
面白い程真っ赤になって動揺している彼女が
己の頭をぼかすかと殴るので
いてぇいてぇと謂いながら
 
己は何かおかしな事でも謂ったかと
首を傾げたのだった
 
 
 
 
 
 
 
 
「………………」
 
今にして想うと
我ながら阿呆ではなかろうかとも思うのだけれども
 
まぁ
アレが一応
一世一代(では無かったが)のぷろぽーずと謂う奴だったらしく
 
あの頃散々喧嘩した彼女は
今では己の許嫁と謂う立場になっていた
 
それと謂うのも
あの幼い日の口約束が
口約束で済まなくなってしまったせいでもある
 
 
 
彼女にぷろぽーず(?)した次の日
己の家の前には見た事もないでけぇぴっかぴかの車が停まり
 
それに乗って来た彼女の父親が
彼女を伴って己の養父母に挨拶に来たのだ
 
吃驚した二人は慌てて己を呼びつけ
事のあらまし己に話させた訳だが
(因に此の時姉も居たのだけれど
少女の父親の姿を見て二人で
「…らっきょだよな…」
「…らっきょだよね…」
と囁き合ったのは秘密だ…………
…何故アレからアレが生まれたのだろう…?)
 
己の方も結構本気だったあの言羽を
彼女に拒否られたと思っていたので
どうしてこうなってるんだ?
と頭に疑問符を浮かべていた
 
あの時彼女は己を殴るだけで
ちゃんとした返事をくれたワケではなかった
 
その為
やっぱ駄目かと
少なからず落ち込んでいた所にこの展開だったせいで
己自身かなり驚いてもいたのだ
 
 
そうして己は彼女が何者か此処で初めて知る事となる
 
 
実は彼女は国内外有数の玩具メーカーの現社長ご令嬢で
実家はとんでもねぇ資産家との事だった
 
それを聞いただけで
 
 
あっやべぇ
己とんでもねぇ所に足踏み入れちまったかも…
 
 

些か……
いや可成り後悔し始めていたのだけれど…
 
父親の横で大人しく座って居る
美しく着飾った彼女の姿を見て
 
 
……………………………………まぁ………………何とかなるか………
  
 
それで総てがどうでも良くなってしまったのだった
 
 
 
 
彼女は末の仔で
しかも娘はただ独りだったとの事で
父親の溺愛っぷりは半端無かったが
(母親は彼女が生まれてすぐ亡くなったそうだ
きっと彼女はソチラに似たに違いない…)
 
上に数人兄が居るらしく
家を継げとか
相続がどうのとか
そう謂った面倒な事は避けて通れるようだった
 
とにかく
彼女が己で無くば駄目だと謂ったらしい
 
その気持ちを泣く泣く汲んだ父親が
此方の気持ちを確かめた上で
己を彼女の許嫁と定めるに為に挨拶へとやって来たのだ
 
己の気持ちは既に彼女に伝えた通りだったので
それなら致し方ないと両方の親達も納得し
己達は晴れて親公認の仲となった訳だ
 
 
 
 
 
 
 
 
そう謂うコトで
アレから八年
 
己は二十歳になり
彼女は今年で十一歳になった
 
 
 
……………………………
 
  
 
謂っておくが己は別に幼児趣味と謂う訳ではない 
 
ただ好いた女がたまたまその年齢だっただけだ
 
 
 
 
 
 
 
 
天気が良いので
バルコニーで洗濯物を干す
 
初夏の風が心地好く吹いて
彼の白いシャツを波立たせた
 
 
 
 
 
 
 
 
「良い女だろ」
 
と彼に彼女を紹介した時
流石に彼も少し驚いてはいたが
 
でも静かに微咲んで
 
「確かに…此れは将来が楽しみだな…」
 
と謂われ
己は本当に誇らしい気分になったものだ
 
彼女に己達のハナシをすると
最初はきょとんっとしていたものの
直ぐに理解出来たらしく
 
「あのおっさんはお前には勿体ねーな」
 
と明るい聲で咲っていた
 
 
 
 
 
 
 
 
ヒトから見れば
己達の関係はおかしな物かもしれない
 
(よくぐる眉にも
お前の所はどうなってるんだと突っ込まれたしな)

 
まぁでも
己は他人からどう思われようが気にしなかったし
彼奴等さえ咲ってくれてりゃぁそれで良いのかと思った
 
(きっとたぶん己が悪いのではなかろうか…とは思ってる)
 
しかしどちらか片方だけ選べ等と
そんな器用な事己には出来そうも無かったし
ぐちぐち悩んだり
ぐだぐだ迷ったりと謂うのも己の性ではない
 
(でも彼奴等が
「あまり深く考えるな」
「お前頭わりぃんだから考えたって無駄だろっ」
とか謂うし)

 
何とも謂い訳がましいハナシだけれど
己は彼の傍に居たかったし
彼女を手放す気も無かった
 
(たしかに悩んだって答えは今の状態以外考えられなかったし)
 
そんな己を他から見る奴は両方なんてと罵るかもしれない
 
(ソレ以外の答えは必要ねぇし)
 
己のせいで二人を傷付けたのかもしれない
 
(そんな時間があったら鍛錬に勤しんでたほうがよっぽどマシだし)
 
もしかしたらこれからもっと酷い事があるかもしれない
 
(だからもう色々と面倒になって)
 
でも彼等は己の我が侭を聞き入れ
それを全部"己"として受け入れてくれた
 
 
「まったく…お前らしい」
「本当しかたねーなぁ」
 
 
そう謂って明るく咲って
 
(此れが一番良かったんだと思う事にした)
 
 
 
器量の狭い己などより
彼等の方がよっぽど甲斐性があったと謂う訳だ
 
 
 
(彼奴等が己の手の届くとこに居りゃぁ
後は全部どうでも良いじゃねーか)

 
 
 
 
 
 
 
 
「………」
 
 
洗濯物を干し終えて室内へと戻ると
彼がソファに腰掛けて愛書を読んでいるのが眼に入った
 
その傍へと近づいて行って横に座ってみる
 
ん?
と視線をだけを寄越した彼が
すぐに己の抱き寄せたので
その力に逆らわず彼の肩にもたれ掛かった
 
 
己がずっと焦がれた男は今こんなにも近い場所に居る
 
 
それだけで胸の辺りが苦しくなって肩が震えた
 
首を上に伸ばして
すぐ傍にある男の唇の端に吸い付くと
「どうした?珍しいな」と
男が咲って本をテーブルへと置いた
 
「たまには…な」
「ふん………」
 
腰の辺りを抱く彼の腕に力が籠り引き寄せられ
瞼を閉じると唇の上に柔らかな感触が降りて来る
 
冷たくさらりとした皮膚の隙間から
想ったよりも熱い舌がするりと唇を割って入り込み
 
柔らかな肉を食まれると
ぴりっとした刺激より生まれた情炎が
腹の底で小さく爆ぜた
 
 
 
 
 
傍では夜と秋水が戯れて遊んでいる
 
時刻を見るとそろそろ十時だ
 
彼女が来る迄まだ数時間ある
 
その間に男に触れてシャワーを浴びて昼飯を喰って…
と己の中で都合の良い計画を立てみる
 
男の背に腕をまわしながら冷蔵庫の中身を思い出し
トマトにアボカドに枝豆にブロッコリーで
さっぱりとパスタサラダも良いなと考え
 
グル眉が寄越したレシピ集にそんなのあったなぁと
男の大きな掌が横腹を撫でたのに
くすぐったいフリをして咲った
 
「楽しそうだな」
「まーな」
 
己は何時でも楽しい
お前はどうなんだ
と問えば
同じようなモノだと男も咲った
 
 
 
 
彼女の長い髪を結ぶリボンのような
おもしろいカタチのパスタを茹でて
 
オリーブオイルと塩でさっぱりと仕上げよう
 
己がそう謂うと男も
たしかつまみにと取っておいたモッツァレッラと
黒オリーブがまだ残ってるから使ってしまえば良いと謂い
己の額にちゅっと音を立てて接吻づけた
 
それなら白ワインも開けるかと己が悪戯っぽく謂うと
「昼間っから酒臭いとまたあの娘にどやされるぞ」と笑った
 
「良いじゃねぇか
何か知らねーがパスタサラダにゃぁ白ワインが合うんだろ?
あのくそコックが寄越したレシピにそんな事が書いてあった
それに彼奴が来たら一緒に喰えば良いしよ
まぁ…ワインは飲めねぇがな」
「お前はただ単に酒が飲みたいだけだろう」
「おっ良くわかったな」
「まったく」
 
午後出かけるのではなかったのかと呆れた男のため息が
剥き出しの素膚を掠めてむずりとする
 
「ワインの一本や二本じゃ酔わねぇよ」
「そう謂う問題ではなかろう
あの娘を何処かへ連れて行くと約束していたのではなかったか?」
 
男の言羽にそう謂えばそうだったなと思い出して
それじゃぁとノンアルコールの
スパークリングワインなら良いだろと首を傾げると
男は好きにしろともう一度咲った
 
 
 
 
剥がされた服が腕から滑り落ちて
ソファの下でくしゃりと潰れると
ソレに気付いた秋水が近寄って来て
すんすんと匂いを嗅いだ後に服の上で丸まった
 
「お前…服が毛だらけになっちまうだろ」
 
そう謂ってもおかまい無しだ
 
男がその様子を見て
「飼い主にそっくりだな」
と呟くのに
己はもう少し聞き分けがいいだろうと
熱にぼやける頭で想った
 
 
 
 
 
 
 
 
窓の外では初夏の陽射しが
蒼昊に漂う白雲をしきりに照らしている
 
 
今日は暑くなりそうだ
 
 
午後は何処へ出かけようかと
お気に入りの紅い日傘をさす少女の姿を想い浮かべながら
男の広い背中に爪を立てた
 
 

嵐簾太郎
2013/07/04 (Thu)


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No,52  


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焦がれ灼かれて何時か花になる
 
嵐簾太郎
2013/06/27 (Thu)


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