己達は良く似ている
黒猫
お前だってわかってるんダロ？
眠れねぇから謳えよ
アンタの酷い謌が聞きたいんだ
そう謂ってシーツに包まる男に呆れてため息を一つ
天窓からの月明かりで
このベッドは何時の間にかステージに
「…早く謳えよ莫迦」
「ソレがシトにモノを頼む態度か？
オネガイシマスぐれーは謂って欲しいモンだね」
「……オネガイシマス」
「あーもう仕方ねぇなぁ」
「うるせぇ早くしろ」
「はいはい己のハートの王様
何時迄も餓鬼だなテメーはよぅ」
「嫌いじゃねぇだろ」
「まぁな」
誰かの紅い液体で汚れた服はベッドの下で丸まって
シーツには僅かにその名残りの色が
男の指形に染まっている
可哀想な誰かを闇に還してあげて来たんだよ 男は道化のように咲って己を抱く
自分ではないジブンの謌聲
孤守唄
月が眩く煌めく
「……あ〜……何でアンタなんだよ…」
「……ソレを何で己に謂うワケ？」
「…最悪」
「本人前にして謂うな傷付くだろ」
「……嘘つくな」
（何れ程焦がれても手に入らない）
月のように
（何れ程アイシテも）
ずっと太陽に背を向けて
（何れ程）
ずっと地球の周りだけを
（延々と）
永々と 「……ホント酷い聲だな…酷い謌」
「ソリャどーも」
「くくく…っ…誉めてねーよ」
「フッフッフッ」
「咲うな莫迦」
酷い謌
酷い聲
酷い姿
酷い魂
己達は良く似ている
「………ヤッパ己アンタ好きだよ」
「知ってるさ」
「ウソこけ」
「己もアイシテルさ」
「莫迦死ね本当死ね」
「フッフッフッ」
黒い影が
月に照らされて男のソレと一つになって
「なぁ…己がもし死んだら泣いてクレんの？」
「どうだろなぁ」
「墓に花でも供えてクレる？」
「さあなぁ」
「…己は泣くかも」
「えっ」
「だから勝手に死ぬなよ莫迦」
「あー……そうかそうかよしよし…フッフッフッ」
「むかつくなアンタ本当」
己達は良く似ている
夜昊に溶ける謌聲
素肌に焼ける傷跡
黒猫
お前だってわかってるんダロ？
走っても辿り着かない事を
目的の地には既に誰も居ない事を
ソレでもまだ走り続けるのか
ソレでもなおぐるぐると回り続けるのか 「なぁよう」
「何だ？」
「疲れてねぇか？」
「疲れてるよ」
「傷増えたな」
「まあね……もうボロボロだ」
「自分で謂うなよ」
「イトオシイだろ？醜くて壊れかけデ」
「まぁな」
まだまだ走れます
息は苦しいですが
手足も傷だらけですが
ダイジョウブです
まだ走れます
例えこの先に誰も居なくても
例え振り向いても誰の姿もなくても （なぁお前己の傍に居なくて平気か？） 言羽にはならない
言羽にはしない
冗談の言羽遊びなら幾らでも口から零れるのに
（それはお互い様か）
にゃぁ
黒猫と彼の影と
地球と太陽の周りを
にゃぁ
奔り続ける
「アイシテんだって」
「己もだって」
（こんなに近い筈なのに）
（何でこんなに寂しいのか）
アイシテルなんてばかばかしいけれど
この爪で切り裂いてやりたい程に
このキモチにソレ以外の言羽が当てはまらないのも事実なのだ
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